胃の気

夏至から数えて11日目にあたるこの日を「半夏生」といいます。

これは薬草の半夏(はんげ)【烏柄杓(からすひしゃく)】がこの時期に生え、その葉が半分白くなって化粧をしているように見えることからその名がついたと言われています。

農家に携わっていない今の現代人にとってこの日は、関西では「蛸を食べる日」、讃岐では「饂飩を食べる日」、福井県では「焼き鯖を食べる日」といったことくらいで、大して重要視されていない節目になっているかもしれません。

しかし農家にとっては大事な節目の日で、この日までに農作業を終え、この日の天候によって、豊作か凶作かを占ったり、麦の収穫祭を行うなどする大切な日なのです。

またこの日から5日間は休みとする地方もあるようです。

なぜならこの日は天から毒気が降ると言われ、井戸に蓋をして毒気が入るのを防いだり、この日に採った野菜は食べてはならないとされたり、ハンゲという妖怪が徘徊すると言われるなど、この時期に農作業を行う事に対する戒めともなっているからのようです。

そんなことに関係なく、その日に採った野菜を食べてしまったなぁ・・・と、知れば気になるのが日本人ですよね。

この日に関西で食べられる「蛸」は、タウリンが豊富に含まれているために血管障害の改善に良いとされています。これから採れる夏野菜のきゅうりと共にあえる「きゅうりもみ」は、夏に火照った体を適度に冷まし、生活習慣病も予防してくれる抜群の料理です。

またこの時期に生える「半夏」は、漢方薬でもよく使用される生薬です。効能は、理気・止嘔・去痰で、「悪心」「嘔吐」「消化不良」「咳嗽」「不眠」などに用います。特に胃の中に水が溜まったような状態の「胃内停水」にはこの「半夏」は効果を発揮します。

健胃作用を目的として使用される代表的なものは「半夏瀉心湯」「六君子湯」などがあり、去痰作用として使用されるものには「小青竜湯」「麦門冬湯」など、理気作用として使用されるものには「半夏厚朴湯」などがあります。

その中でもこれからの時期、気をつけて欲しいのは「健胃」です。字の如く「胃」を「健康」に保つこと。

これから夏を迎えるにあたって、冷たいものの採りすぎ、食欲減退・・・などなど「胃」はどんどん弱ってきます。中国では「ごはん食べましたか?(チー・ファン・ラ・マ?)」が挨拶の言葉となるように、家族団らんで楽しく食事をすることが重要視され、「食べること」が大切だとされています。

元気に食事ができ健康であって初めて、仕事ができ財を得ることができると言われているのです。これは仕事だけに言えることではなく、元気に生活でき、子供を授かり、出産し、子育てが楽しくできるためには「「胃」が元気でなければなりません。

「胃」が元気でなければ「胃の気」が弱くなり、脈も弱くなってしまいます。

今は「夏」の季節になりますので、今「脈」は通常、やや大きく波が押し寄せるような脈の「洪脈(こうみゃく)」であるはずですが、それが弱いままであったり、1つ前の季節の「春」の「弦脈(げんみゃく)」という琴の弦を弾くような脈のままだったりすると、体が季節についてきていないことがわかります。

その原因は様々ですが、「胃腸の調子が悪い」ような人であれば、胃を健康に整えることが大切です。

漢方薬もそれを吸収してくれる胃腸が元気でなければ何にもなりませんので、胃腸が弱い人にはそれを考えて薬を調整することになります。

今までにも胃腸を整えるお薬を服用してもらっただけで、妊娠された例は多くあります。

「胃腸が元気であること」「楽しく美味しく食べられること」これが根本となるのです。あまり胃腸が元気でない、という人は、是非漢方薬の力を借りてみてください。加えて自分で胃のツボである「足三里」にお灸をするのも良いでしょう。

本格的な夏を前にして、「胃の気」を整えることを考えてみませんか。